2023年も残すところ残りわずかとなったので2023年の振り返りと2024年の目標について書きたいと思います。
2023年の振り返り
2023年は自分の人生にとって大きな転機となる1年でした。
急に決まったことでしたが、3月末で2016年から勤めていたLearning for Allを退職しました。そして、4月から僧侶として実家の寺の仕事をしつつ、東京大学学際情報学府文化・人間情報コースの山内祐平先生の研究室に所属することになりました。将来、寺を継いで僧侶としての務めを全うしつつ、研究者としてアカデミアと社会に貢献することを目指して、新しい道を目指し始めました。
山内研(そして学際情報学府)での研究生活はとても充実しており、今後の研究人生の礎となるような1年を過ごすことができたように感じています。私はトロント大学オンタリオ教育研究所という教育系の大学院で実践家修士(MEd)ながら修士号を取得していたため、山内研を選んで改めて修士課程から入り直すことには実は若干の迷いがありました。自分の年齢を考えると博士課程から入ることができる大学院・研究室を選んだ方がいいのだろうかと考えたこともありましたが、結果として山内研を選んだ自分の意思決定は正しいものだったと今は自信を持って言えます。研究室のOB・OGや博士課程の先輩から一人ファシリテーターと呼ばれる研究の伴走者がついてくれるファシリテーター制度や、修士一年の丸々一年間を修論研究のRQ(リサーチ・クエスチョン)の設定のための先行研究レビューに費やすことができる研究スケジュールなど、研究者としての成長に必要な深い学びを支える仕組みが山内研にはあり、自分の研究者としての成長を大きく後押ししてくれました。
特に先行研究レビューでは、自分の修論及び博論の研究テーマをアライ(Ally)の学びに定め、RQの設定に向けて深くレビューを行うことができました。その過程で、先行研究レビューの方法論が自分の中でしっかりと確立しただけでなく、博論以降も見据えて今後どのような研究者として、どのような領域・分野の研究を行っていきたいのかをかなり明確にすることができました。もちろん、今後研究を進める中でこれらはまた変わっていくものだと思いますが、自分の研究者としてのビジョンを持てたことはかけがえのないこの1年の成果だと感じています(そして、また別の機会に記事にして投稿したいと思います)。背景には、自分が網羅的にレビューを進めたことで自分の専門分野の課題や伸び代を把握できたこともありますが、それ以上に研究進捗発表の際に山内先生から今後10年を見据えた様なフィードバックをいただいたり、ファシリテーターの杉山昴平さんの様な先輩研究者の姿から刺激を受けたりしたことが大きいように思います。
2024年の目標
2024年は何と言っても修士論文を書き上げることが目標となります。そして、そのプロセスを経て研究者としての足腰をしっかりと鍛えたいと思います。特に、以下の3点を大切にしたいです。
研究の方法論を根本からしっかりと学ぶこと
「根本から」という言葉選びには、科学哲学の基本的な論点からちゃんと抑えて、認識論、リサーチ・デザイン・手法(これら3つでメソドロジー=研究方法論)を一貫して思考できる力を身につけたいという思いがあります。研究室の先輩の過去の修論などを参考にしつつ何冊か研究法の本を読めば、修士論文は問題なく書き上げられる気がするのですが、それだと研究者として本当に身につけるべき研究の構想能力・批判能力が十分に鍛えられない様に思うのです。そもそも「因果ってなんだ?」のような深いところから基本的な論点を理解し、具体的な手法まで一貫して学ぶ時間をしっかりととることが研究者として成長する上で大切だと私は考えています。大学院の授業だと、「手法」については多様な学びの機会が確保されていますが、上位レイヤーの認識論やリサーチ・デザイン、さらにその背景の科学哲学の議論等については直接知識を得る機会はあまりないので(もちろん、リサーチ・デザインなどについてはゼミで他のゼミ生の研究発表を聞く中で自然と学んでいくことはでいます)、自分で学びの舵取りを考える必要があります。来年は自分のRQを解くためのメソドロジーについて具体的に考えつつ、「研究の方法論を根本からしっかりと学ぶこと」を大切にしていきます。
研究上の実践を研ぎ澄ます経験をすること
私の所属する山内研は教育工学・学習環境デザインを専門とする研究室です。研究室のメンバーは多様なバックグラウンド・専門分野の人が集っているものの、人の学習を扱うというところは共通しており、①実際に起こっている学びを明らかにする系の研究(調査系)か②学習環境を構成し効果を測る系の研究(仮説検証系)かのどちらかの研究を行います。私は②のタイプの実際に自分で学習環境をデザインする研究を行う予定なのですが、その時に大切になるのが学習環境のデザイン、つまり「実践」のクオリティです。中途半端な実践は結果が伴わず、中身のある示唆が得られないことになってしまいます。一方、しっかりと構成された実践・研究参加者にとって価値がある学びを提供できる実践であれば、当然そこから得られる研究上の示唆は鋭いものになるはずです。ただ、その様な実践はすぐに出来る様なものではなく、実際に本番の実践を行うまでにプレ実践と呼ばれる予行練習を複数回行って改善を重ねていくことになります。来年はそのプロセスをしっかりと行い、そこから多くのことを吸収したいと思っています。私は現実の学習の場に価値ある示唆を提示できるような研究者になりたいので、研究における「実践の構想力」というのはとても大切な力です。それは実際にやってみる中で初めて学べる類の力なので、「研究上の実践を研ぎ澄ます経験をすること」を重視したいと思います。
自らの専門分野の基盤をさらに固めること
これは今年行っていた先行研究レビューの作業の続きです。23年4月からRQの生成に向けて先行研究のレビューを進めていましたが、論文を読みこなしながら読むべき文献リストを更新し続けてきました。私の専門分野は論文数はたくさんあるのですが、レビュー論文やハンドブックなどがほぼない状態のため、自分自身で文献を取りまとめてリストを作成する作業が重要になります。細々とリストを更新し続けたおかげで先行研究の流れはかなり可視化され、重要な研究者や過去の論文がわかるようになりました。来年はこのリスト上で読めていない論文でかつ重要なものをさらに読み進めたいと考えています。それを通じて、①博論のRQの生成、②博士課程の間にレビュー論文を執筆すること、の二つに繋げたいと思います。
最後に
長々と書きましたが、何はともあれ2024年も研究者として成長する1年にしたいです。私の選んだ研究分野(直近の修士・博士の研究ではアライ、より広く大きな捉え方をすると社会正義教育)は日本で研究分野として確立された領域ではありません。良く言えば他の人が手をつけていない「金脈」を見つけたとも言えるかもしれないのですが、悪く言うと「何学をやっている人かわからない」という状態であり、実際に研究者として生きていく上でリスクも大きくなります。ただ、自分の研究領域がこの社会に必要だと信じており、長い時間をかけてこの研究領域を拓いていく研究者でありたいと思っているので、この道を選びました。ただし、周縁から中心を目指すアウトサイダーとして生きていくには、とにかく力をつける必要があります。海外の学術分野を日本に紹介しているだけの出羽の守ではない、本物の研究者としての力を身につけたい。修論に没頭しながら、自分の研究者としての基盤を構築する一年にしたいと思います。